『バイオハザード2』のディレクターを務めた神谷英樹氏が、バイオハザードに「怖くないモード」を搭載してほしいと訴え続けています。2026年3月にX上で大きな議論を呼び、9月には海外メディアのインタビューで改めて同じ主張を展開しました。
この件は「ホラーゲームから恐怖を取り除いてどうする」という反発とセットで語られがちです。ただ、神谷氏の発言を時系列で追い、さらに『バイオハザード レクイエム』のディレクター自身が発売前に語っていた言葉と並べてみると、話はもう少し込み入っています。この記事では発言の中身を整理したうえで、開発側の証言と突き合わせます。
結論: 何が起きているのかの早見表
| 発言者 | 神谷英樹氏(『バイオハザード2』ディレクター) |
| 主張 | バイオハザードに恐怖を軽減する任意オプションを搭載してほしい |
| 最初の発信 | 2026年3月2日・3月10日のX投稿 |
| 最新の発信 | 2026年9月1日 VGCのインタビュー |
| カプコンの公式回答 | 現時点でなし(※搭載予定の発表もありません) |
| 現行の類似機能 | 視点の選択・難易度設定はあるが、恐怖表現そのものを調整する機能はなし |
発端は2026年3月、公式投稿への返信だった
ことの始まりは2026年3月2日の神谷氏のX投稿です。『バイオハザード2』を手がけた当時にも同じことを訴えたとしたうえで、カプコンは「怖いの嫌いな人のための安心モード」の搭載を本気で検討したほうがいい、と提案しました。具体案として挙げたのが、怖すぎるゾンビの造形をかわいくするというもの。いらすとや風のタッチで笑顔になり、笛付きシューズを履いて音を立てながら歩く、という細かさで語っています。
神谷氏はこの11分後に、もうひとつの案も投稿しています。主人公の横に出川哲朗氏のようなリアクションキャラが常に同行するモード、というものです。根拠として挙げているのが『バイオハザード2』での自身の体験で、一人で遊んでいても画面の中にエイダがいてくれると恐怖が緩和された、という。恐怖を見た目の問題ではなく「一人であること」の問題として捉えていて、こちらのほうがむしろ踏み込んだ提案かもしれません。
議論が一気に広がったのは、その8日後です。2026年3月10日、バイオハザード公式アカウントが「『バイオハザード レクイエム』をプレイいただいた皆様へ」と題した投稿を公開しました。これは中西晃史ディレクターが登場する動画で、全世界販売本数500万本突破への感謝、フォトモードの実装予定、5月頃のミニゲーム追加、そして追加ストーリーDLCの開発を告知したものです。

神谷氏はこの公式投稿を引用する形で、改めて「怖くないモード」を要望しました。ゾンビの見た目がかわいくなり、血しぶきが花吹雪に置き換わり、音楽も明るい曲になって、パズルと戦闘だけを純粋に楽しめる仕様。理由として挙げたのは、遊びたいのに怖くて夜ひとりで眠れなくなるので遊べない、という自身の事情でした。この投稿は136万回以上再生され、賛否が入り乱れる事態になります。
翌3月11日、神谷氏は批判が殺到した状況について、「いつも話していることなのになぜ今回だけ」、という趣旨の投稿をしています。あわせて興味深い指摘をしていて、批判の多くが国内から来たもので、海外からはむしろ賛同のメッセージが多く届いた、というのです。これはあくまで本人の実感であって計測されたデータではありませんが、後述する海外の受け止め方を見るかぎり、印象論として片づけられない部分があります。
半年後、主張は撤回されていなかった
ここまでなら、著名クリエイターの一時的な発言と炎上、で終わる話でした。実際にはそうならなかった。
2026年9月1日、海外メディアVideo Games Chronicle(VGC)に掲載されたインタビューで、神谷氏は半年前とまったく同じ主張を、より踏み込んだ形で語っています。しかも今度は具体案が段階的になっていました。
- ゾンビの顔を怖くない造形に変更する
- ゾンビの頭に茶色い紙袋をかぶせる
- 暗い部屋の照明を明るくする
- 血の表現を削除する
そして実装の形として神谷氏が引き合いに出したのが、自身が手がけた『ベヨネッタ』の難易度設定とナイーブエンジェルモードでした。つまり、遊びたい人だけが選ぶ任意のオプションとして置けばいい、という考え方です。
▶ 出典: プラチナゲームズ公式アカウントの投稿(2022年7月13日)
さらにVGCの記事には、この要望を私的な会話としてバイオハザードの開発陣に伝えたこと、シリーズプロデューサーの竹内潤氏にも直接「怖すぎる」と言ったこと、新作が配信されるたびにメールのやりとりで同じ内容を返している、という話まで出てきます。思いつきの発言ではなく、少なくとも本人の中では一貫した働きかけとして続いているわけです。
神谷氏は「バイオを怖くするな」とは言っていない
ここが議論を整理するうえで一番重要な線引きです。
3月の炎上時、反発の多くは「ホラーから恐怖を抜いたら別のゲームになる」「作り手の意図を尊重すべきだ」という筋でした。これは主張としてまっとうですし、シリーズを愛しているからこそ出てくる反応でもあります。ただ、この批判は神谷氏の提案とは少しずれた場所を叩いています。
神谷氏が求めているのは、バイオハザード本体を怖くない設計に作り替えることではありません。標準の体験はそのままに、恐怖表現を落とした選択肢を追加してほしい、という要望です。実際にVGCの取材でも、ベヨネッタの難易度設定と同じレイヤーの機能として語っている。デフォルトを書き換えろという話ではないのです。
この違いは小さく見えて、賛否の前提を丸ごと変えます。「バイオから恐怖を奪うな」という反論は、デフォルトが変更される前提のときにだけ成立する。オプション追加の話であれば、論点は「作品性を損なうか」ではなく「開発リソースを割く価値があるか」に移ります。
「恐怖の調整」はすでに実装されている
神谷氏の主張が海外で受け入れられやすかった理由は、おそらくここにあります。恐怖表現を任意で調整できる機能は、すでにいくつものタイトルで実装例が積み上がっているからです。
代表的なのがクモ恐怖症向けの設定、いわゆるアラクノフォビアモードです。
(※アラクノフォビアモードとはクモの見た目を軽減・変更するモードです)
カプコンはすでに自社タイトルで実装している
意外に思われるかもしれませんが、恐怖表現を調整するオプションはカプコン自身がすでに製品へ載せています。『モンスターハンターワイルズ』の「蜘蛛恐怖症対策モード」です。


画像出典: Game*Spark「クモが苦手でも安心!?『モンハンワイルズ』に「蜘蛛恐怖症対策モード」なるオプションが追加―該当モンスターはぷるぷるしたスライムになる」(2024年10月29日)/©CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
この機能をオンにすると、一部の多脚の小型モンスターや環境生物の見た目が変わり、クモに近い姿はぷるぷるしたスライム状のものへ置き換わります。重要なのは、行動パターンにも難易度にも一切影響しないことです。変わるのは見た目だけ。しかもこの項目は難易度設定とは別枠で、遊びやすさを調整するための設定としてまとめられています。カプコンは恐怖をやわらげることを、ゲームの手加減ではなく「遊べる人を増やすための配慮」として扱っているわけです。
神谷氏がVGCで語った案と並べてみてください。ゾンビの造形を変える、照明を明るくする、血の表現を消す。ゲーム性には触れず、見た目のレイヤーだけを任意で切り替える。設計思想としてはまったく同じものです。つまりこれは、カプコンにとって未知の発想ではありません。
もうひとつ注目したいのが適用範囲です。蜘蛛恐怖症対策モードは小型モンスターと環境生物にしか効きません。多脚の大型モンスターの姿はそのままです。全部に手を入れようとせず、効果の大きい部分へ絞って実装している。「バイオ全体から恐怖を抜くのは不可能だ」という反論に対して、そもそも全部やる必要はないという答えが、同じ会社の中にすでに存在しているわけです。
Grounded: 5段階のスライダーで見た目を調整する
Obsidian Entertainmentが2020年に実装したこの機能は、クモの見た目をスライダーで段階的に変えられる仕組みでした。最初の段階では8本ある脚のうち2本が消え、最終段階ではクモが巨大な塊のような姿になる。しかもこの設計にあたっては、Xbox Researchが恐怖反応の調査を行い、どの形状ならプレイできるようになるかを検証しています。
神谷氏が9月のインタビューで挙げた「ゾンビの顔を怖くない造形に」「頭に紙袋をかぶせる」という案は、発想としてこのスライダー方式とほぼ同じものです。突飛なアイデアに見えて、実は前例のある設計思想でした。
Satisfactory: クモを猫の顔に置き換えた結果
一方で、対応を間違えると逆効果になる例もあります。Coffee Stain Studiosの『Satisfactory』は、クモを猫の顔を写した平面画像に差し替えるという方法を取りました。鳴き声も猫のものに変わります。ところがこの処理は、一部のプレイヤーからかえって不気味だという反応を引き出してしまった。恐怖の軽減は「怖い要素を消せば済む」という単純な作業ではない、という教訓として語られています。
これらの実例が示しているのは、恐怖表現の調整はアクセシビリティ設計の一分野として成立していて、しかも作り込みの巧拙がはっきり出る領域だということです。ホラー専業ではないタイトルですら、ここに開発リソースを割いている。
開発者は自分の作った怖さに慣れてしまうのか
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
VGCのインタビューで神谷氏は、開発チームは自分たちが作っている怖さに麻痺してしまっているのではないか、と指摘しました。自身も初代『バイオハザード』と『2』を隅々まで知り尽くすうちに怖さを感じなくなった経験があり、同じことが現在のチームにも起きているのではないか、という見立てです。
これは外部の人間による推測にすぎません。ただ、この指摘には裏付けと呼べる材料があります。
「怖さを抑えたら怖くなった」という開発者の証言
2025年9月28日にGAME Watchが公開したTGS2025のインタビュー記事は、そのままのタイトルが「怖さを抑えたら怖くなった……?」でした。登場するのは『バイオハザード レクイエム』の中西晃史ディレクターと熊澤雅登プロデューサーです。
この中で中西Dは、カメラ視点も含めて『バイオ7』よりは怖くならないよう調整したと語りつつ、結果的にかなり怖くなってしまった、と述べています。理由として挙げているのが三人称視点の副作用でした。画面の中でグレースが不安そうに動く様子を見ることで、プレイヤー側もパニックに陥ってしまう。つまり、恐怖を抑える意図で入れた設計が、意図しない経路で恐怖を増幅させていたわけです。
神谷氏の指摘と並べてみてください。開発チームは怖くしすぎないよう調整したつもりだった。しかし完成したものは、本人たちの想定を超えて怖かった。「自分たちが作る怖さの水準を正確に測れなくなっている」という現象が、批判者ではなく作り手自身の言葉で語られている。神谷氏の主張が9月にVGCで蒸し返されたとき、その根拠はすでに1年前の公式インタビューに存在していたことになります。
ホラー制作の現場では、これは構造的に避けにくい問題です。作り手は同じシーンを数百回、数千回とチェックします。ジャンプスケアのタイミングも、敵の出現位置も、すべて頭に入っている。恐怖は「予測できないこと」から生まれる以上、内容を完全に把握している人間から先に恐怖が抜けていく。品質を上げるための反復作業が、恐怖の物差しを壊していくという構造です。
視点を選ばせるという既存の設計思想
もうひとつ見落とせない材料があります。2026年1月27日にPlayStation.Blogへ掲載されたインタビューで、中西Dは一人称視点が苦手な人が一定数いるため、視点を最初から選べるようにしたと語っています。
同じインタビューでは、レオンのパートで爽快感を出せるぶん、グレースのパートは遠慮せずに怖くしている、という設計意図も明かされています。恐怖の濃淡をパートごとに設計し、プレイヤーの適性に合わせて視点を選ばせる。カプコンは「怖さの受け止め方には個人差がある」という前提を、すでに製品の設計思想として持っているわけです。
そう考えると、神谷氏の要望はゼロからの新提案ではありません。すでにある思想を、視点の選択から恐怖表現そのものへ一段延長してほしい、という話になる。実現の難易度は跳ね上がりますが、思想として断絶しているわけではないのです。
それでも実装が難しい理由
ここまで神谷氏の主張に理があると書いてきましたが、実装のハードルは正直に見ておく必要があります。
クモを別のモデルに差し替えるのと、バイオハザードから恐怖を抜くのでは、作業量の桁が違います。ゾンビの造形を作り直すだけでは足りません。照明設計、効果音、BGMの構成、カメラワーク、敵の出現タイミング。バイオハザードにおける恐怖は、単体のオブジェクトではなくゲーム全体に編み込まれた設計です。ひとつを外すと別の場所が破綻する。事実上、もうひとつのバージョンを作るのに近い作業になります。
加えて、恐怖を抜いた状態でゲームとして成立するかという問題もあります。バイオハザードの緊張感は、弾薬の残量やセーブポイントまでの距離といったリソース管理と結びついています。怖くなくなった瞬間、そのリソース管理がただの面倒な作業に変わってしまう可能性は否定できません。神谷氏はパズルと戦闘だけを楽しみたいと語っていますが、その2つが恐怖と切り離せる形で存在しているのかどうかは、実際に作ってみないとわからない部分です。
まとめ: 恐怖はバイオの中核か、演出レイヤーか
神谷氏の提案をめぐる議論は、結局のところひとつの問いに行き着きます。バイオハザードにとって恐怖とは、取り外せない中核なのか、それとも上から乗せてある演出レイヤーなのか。
中核だと考えるなら、怖くないモードは作品を別物にしてしまう改変です。演出レイヤーだと考えるなら、視点や難易度と同じく選ばせればいい追加機能ということになる。3月の炎上は、この前提の違いを共有しないまま賛否だけがぶつかった結果でもありました。
面白いのは、この問いに対する答えを、シリーズの作り手たちがまだ確定させていないことです。中西Dは怖さを抑える方向に調整し、結果として怖くなったと語りました。視点は選ばせ、恐怖の濃淡はパートで作り分けた。恐怖をどこまで動かせる要素として扱うかは、現在進行形で試行錯誤されている領域なのです。
『バイオハザード レクイエム』には追加ストーリーDLCの開発が発表されています。もし今後カプコンが恐怖の調整機能に何らかの形で踏み込むことがあれば、それは神谷氏の要望に応えたというより、シリーズがこの問いに自分なりの答えを出したということになるのかもしれません。
【追記:2026年9月3日 13時40分】
本記事の公開後、神谷氏本人から補足の投稿がありました!
自身もゲーム開発の経験者であり、開発リソースを勘案したうえで
実現可能性の高い提案をしているつもりだ、という趣旨のものです。
これは重い指摘です。本記事の「それでも実装が難しい理由」で挙げた、作業量の桁が違うという見立ては、あくまで外部からの推測にすぎません。
対して神谷氏は『バイオハザード2』『デビル メイ クライ』『大神』『ベヨネッタ』を手がけ、どの工程にどれだけのコストがかかるかを現場で見てきた立場にあります。
つまり一連の提案は、実装の重さを知らない人間の願望ではなく、コストの見積もりを踏まえたうえで出されたものだということになります。
そう考えると、論点はさらに絞られる。
技術的に可能かどうかではなく、カプコンがそこへ開発リソースを割く判断をするかどうかです。
そしてその判断材料は、すでにカプコン社内にあります。
『モンスターハンターワイルズ』で実際に作られた、あの機能です。
なお神谷氏は同日、この件についてもうひとつ投稿しています。短い投稿では意図のすべてを伝えるのが難しく、自分はいつも最低限の言葉で書いている、という趣旨のものです。
3月の議論がすれ違った要因は、受け取る側だけにあったわけではない、ということになります。「怖くないモード」という言葉だけが切り取られて広まり、それが任意のオプションを指すのか、本体の仕様変更を指すのかは、短い投稿からは判別できなかった。発信側と受信側の双方に事情があった、と見るのが公平でしょう。
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参考・引用元
- 神谷英樹氏のX投稿(2026年3月10日): https://x.com/HidekiKamiya_X/status/2031351268476887320
- Video Games Chronicle(2026年9月1日): Hideki Kamiya says Resident Evil developers have lost sight of how scary their games are
- GAME Watch(2025年9月28日): 怖さを抑えたら怖くなった……? 「バイオハザード レクイエム」開発者インタビュー【TGS2025】
- PlayStation.Blog(2026年1月27日): 『バイオハザード レクイエム』インタビュー! 主人公ふたりのプレイフィールの違いによる緊張と弛緩のリズム
- 4Gamer(2026年3月10日): 「バイオハザード レクイエム」,追加ストーリーコンテンツの制作決定
- Game*Spark(2024年10月29日): クモが苦手でも安心!?『モンハンワイルズ』に「蜘蛛恐怖症対策モード」なるオプションが追加―該当モンスターはぷるぷるしたスライムになる



コメント
コメント一覧 (2件)
敵を全員豆腐にしようぜ
神谷さんが褒めるとかかなり珍しいんじゃない?